定期大会議案書の要点

6 教育改革の動き
(1) 教育3法成立をめぐる情勢
06年12月の新しい教育基本法の成立を受けて、反対運動にもかかわらず、07年6月に教育関連3法案
(「改正」学校教育法・「改正」教育職員免許法・「改正」地方教育行政法)が成立しました。

「改正」学校教育法:学校に副校長・主幹教諭・指導教諭を置くことができ、義務教育の目標 に「愛国心」を養うことを盛り込む。
「改正」教員職員免許法:教育職員免許の有効期間を10年に限り、更新するには講習を受けな
ければならない。
「改正」地方教育行政法:地方自治体の教育委員会に指示したり、是正を要求したりする権限
を文部科学大臣に与える。

いずれの法律も、その運用の仕方によっては、教職員の今まで以上の多忙化や学校現場の混乱につながるような恐れがあります。
①「改正」学校教育法にかかわって
08年4月から副校長・主幹教諭・指導教諭という新しい職が設置されることになりました。都道府県の判断により「おくことができる職」として位置付いているため、長野県においては、08年度には導入しないということが決定しています。
他県の状況を見ると、07年度までに埼玉、広島など6都道府県、7政令市で「新しい職」が導入されました。08年4月からは、愛知・徳島・愛媛・佐賀等で新たに導入され、その動きは全国に広がっています。職に対して新たな給与表を設けている所もあれば、一般教員の給与と特設の差異を設けていない県もあり、その対応は県によって大きく異なっているのが現状です。08年2月、全国人事委員会連合会は、全国の人事委員会に向けて教育職給料表に特2級を新設したモデルを提示しました。これを受けて長野県人事委員会においても、この「新しい職」に関わる提案をしてくることも予想されます。「新しい職」の導入が職場の分断や、管理体制強化につながらないように、他県の実施状況に注視しつつ課題を明らかにしていくことが必要です。
②「改正」教育職員免許法にかかわって
09年4月からは教員免許更新制が導入されます。08年3月31日現在で満32歳,42歳,52歳になっている教職員が最初の講習対象者となります。法改正後から文部科学省では、大学関係者や教育委員会を対象とした説明会や意見交換会を開催してきました。また、08年2月には、文部科学省から、「教育職員免許法施行規則改正省令及び免許状更新講習規則案」が示されました。その中で、「教員免許更新制は、その時々で教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に士気技能を身につけることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の信頼と尊敬を得ることを目的とする」とあり、「不適格教員の排除を目的としたものではない。」と明記されています。
一定期間ごとに教職員が技術や知識を獲得する機会が得られる為、教職員のレベルアップに繋がるという点が長所としてあげられる反面、現職教員が免許更新講習の為に職場を30時間離れるということは、その教員が分担していた仕事を他の誰かが負担しなければならないということになります。授業準備や教材研究、校務分掌、生徒指導、保護者対応などの為の時間が激減し、教育レベルの低下につながったり、周りの教職員の多忙化につながるというマイナス面が指摘されています。また、運用面においては、免許管理者であるとともに、教職員の人事権などの権限を持つ都道府県教育委員会が更新講習の開設主体となっていることや現職研修との整合性、特に10年研修との一元化が進んでいないことなどが問題点として指摘されています。

(2) 国民投票法をめぐる情勢
憲法を改正するためには、国会における決議だけでなく、国民への提案と国民投票を行う必要があります。1947年の憲法施行以来、国民投票に関する法律は制定されませんでした。憲法改正を目指す安部内閣は、06年の5月に国会に国民投票に関わる法案が提出しました。この法案には、数々の問題点が指摘されていました。例えば、最低投票率の規定がないため、例えば30%の投票率でも、過半数の賛成があれば改正が認められること、国民投票法運動に対し、テレビ・ラジオによるコマーシャルなどマスコミへの規制が定められていること、そして、公務員や教職者の、地位を利用した投票運動が禁止されていること、などでした。しかし、慎重審議を求める多くの国民の声に耳を貸さず、十分な論議を尽くさない中で、07年5月に成立し、公布されてしまいました。今後、3年後の10年5月の施行に向けて、国会各院に憲法審査会が設置され、憲法改正に向けた動きが具体的になっていくことが予想されます。国民の意思を十分に反映できる国民投票制度の在り方や憲法論議の在り方について注意深く見守る必要があります。
08年2月、プリンスホテルが、日教組の教育研究集会での全体会会場を使用をいったん受けながら右翼団体の妨害の可能性あることなどを理由に一方的に拒否し、3度にわたる東京地裁、高裁の司法判断にも従わず、教研全体会が中止に追い込まれるという事態が起きました。日々の教育実践を全国から持ち寄り、自主的に研修し合う場としての集会を妨害するような行為は、「集会の自由」を定めている憲法に反する行為であり、決して許すことができないことです。日教組は08年3月に、プリンスホテルとその経営者を相手に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。自民党の憲法草案には、「公の秩序に反しないように、(国民は)自由を享受する。」と規定しています。「言論の自由」が「公の秩序」の中に制限されていくことが危惧されます。憲法改悪の動きに合わせ、プリンスホテルによる集会使用拒否問題の今後の動きを注視していく必要があります。

(3)日教組の動き
日教組は、『教育関連3法の「改正」は、学校現場に直結する重要な法律であり、「子どもたちをどう育んでいくのか」「学校現場をどう支援していくのか」等の視点で実証的なデータにもとづく分析や子ども・保護者・教職員・教育関係者等の意見をもとにあらゆる角度から検証・検討すべきである。』として、子どもたちとじっくり対応できる学校現場の体制の確保、学ぶ豊かさを喚起させるゆとりと豊かさの教育環境の提供、教育条件整備をふまえた十分な論議を求め、改正の動きに対峙してきました。
法案成立後は、「新しい職」については、文部科学省に対して、教職員の定数改善の推進と、管理職指定すべきでないことを求めて協議・折衝を続けています。「教員免許更新制」に対しては、拙速な導入は教職員の多忙化や学校現場に混乱をもたらすとして、中教審に対して意見書を提出するとともに文部科学省とも交渉を重ねてきています。

「新職・新級を設けるにあたっての5原則」 (日教組教育新聞より)
1 職員会議の活性化
○全ての教職員の参画による学校運営を確立する。特に、活動を企画立案する層と、それに従う層という職場の分断につながらないよう、全教職員参加による職員会議を確保する。
2 協力・協働の職場作り
○「経験豊かな教職員の専門性」と「様々な職種の専門性」が学校全体に機能発揮できる学校組織とする。合わせて、子ども、保護者、地域の願いを実現する協力・協働の学校運営組織をめざす。
○現業職員・事務職員・学校栄養職員・実習教員・寄宿舎教員・学校司書など、それぞれの専門職について、職の確立をはかり学校運営組織に位置づける。
3 中間管理職化させない
○「新しい職」は「教諭・養護教諭・栄養教諭等から任用される職」と求める。
○他の教職員に対する服務指揮・監督権限等を持たず、管理職指定しないこと。
○「新しい職」の配置とともに、主任(保健主事を含む)を置かないようにする。
○「新しい職」は教職員評価に関与しないこと。
4 経験豊かな教職員の任用と処遇改善
○給与水準の改善を目指し、教員の3級格付けについては、従来の方針を堅持しつつ、当面は「新しい職」の新級増設を求める。
○「新しい職」の発令基準は透明で、公平なものにすること。
5 「新しい職」の配置改善
○学校現場に合った「新しい職」の配置を求めていく。また、「新しい職」を設置したことで多忙化に拍車がかからないよう、「新しい職」に関わる定数改善措置を求めるとともに、30人以下学級を中心とする次期定数改善計画の実現を強く要求していく。

(4) このような情勢の中での運動の方針
政府・文部科学省・教育再生会議・中央教育審議会の動きは、性急で、しかも大きな転換点を迎えました。08年度は、既に実施している他県の状況に注視し、問題点が明らかになったら、それを許さず具体的な行動を示さなければ大きな渦のなかに巻き込まれてしまう懸念があります。この動きが中央政界を中心に巻き起こっている以上、下伊那支部独自のとりくみだけでは微力です。全国最大の教職員組合である日教組とともに憲法改悪や教育制度改革の動きに待ったをかける運動を全国的に展開することが、今求められています。