定期大会議案書の要点

5 新学習指導要領をめぐって
08年2月、新学習指導要領の改訂案が発表され、続いて3月告示となりました。最近の学力低下批判を受けて「ゆとり教育」路線が転換し、授業時間数は約40年ぶりに増加(主要教科全体の時間数で約1割増加)されました。そして現行学習指導要領で削除された学習内容の復活や指導項目の増加、小学校高学年で週1時間の外国語活動を必須としています。また、道徳の教科化は見送られたものの、今まで以上に重視される方向は色濃く打ち出され、全教科を通じた道徳教育の実践や、「道徳教育推進教師」を各校に配置することなどが明記されています。さらに各教科で「言語活動」や「伝統・文化の指導」が重視されるといった内容となっています。また2月の公表の時点では示されていなかったいわゆる「愛国心」にかかわる内容(例えば「君が代」が歌えるように指導する。我が国の安全と防衛及び国際貢献について考えさせる。等)が3月の告示の時点で突然示されるといった異例の告示方法であり、その点でも疑問を抱かせる新学習指導要領となりました。
学習内容や授業時間が増える今回の改定案に対しておこなわれた全国世論調査(朝日新聞社)では、年代を問わず「全体の82%の人が賛成」という回答結果が得られています。また今回の改定案で「教える幅が広がる」と歓迎する現場教職員の声もあり、学力低下への懸念を背景に学習内容の充実が求められている現実があります。
しかし、その一方で授業時間や学習内容を増加したことで学力低下批判に対応したといいつつ、これまで通り「生きる力の育成」は重要であるとしたり、教育基本法の改正にあわせて「日本の古典や伝統文化、武道、唱歌」を取り入れたり、全教育活動を通して「道徳教育を強化」したりといった改訂は、それぞれの立場からの願いをあれもこれもと取り入れた内容とも受け取れます。そのことで教育の現場に大きな不安や混乱をきたすことも予想されます。保護者の中には、子どもたちの学習にきめ細かな目が届かなくなるのではないか、できる子とできない子の差はさらに広がり新たな問題を生むのではないかといった心配をする人もいます。
 来年度から移行措置期間に入り、算数・数学・理科や社会の一部・道徳はそのまま前倒し実施も予定されています。授業時間や学習内容の増加は、今でも多忙な毎日を送る現場の教師の負担が、ますます増えることにもなりかねません。新しい学習指導要領で示されたことを現場で実践していくためには、一人ひとりの子どもに教師の目が行き届き、教材研究の時間が十分確保できるといった環境が必要です。実際中央教育審議会の答申でも「教員定数の改善が必要」と教育条件整備についての提言もありました。しかし本年度の教員増は全国で約1200人にとどまっています。このことに限らず学習指導要領の改訂にあわせた現場の教育条件整備が進んでいるかと言えば、むしろ逆行しているとも思える情勢もあります。教育予算がふえたり、教師がふえたり、あるいは学習・研修の場が保障されて教師の力量の向上が支えられたりといった改革等について広く要望していく必要があります。