山間地問題対策委員会 答申

2011年2月15日

長野県教職員組合下伊那支部

執行委員長  小林 敏 様

山間地問題対策委員会

委員長 大池 満

山間地問題対策委員会 答申


平成22年年3月18日、長野県教育委員会定例会において、「学校職員のへき地手当等に関する規則の一部を改正する規則案」が審議、承認されて、4月1日より新しいへき地等学校の指定が施行されました。今回の改正は、「へき地教育振興法施行規則の一部を改正する省令」が、平成21年3月13日に文部科学省令第4号として公布され、平成22年4月1日から施行されることになったことにより行われました。20年ぶりに基準そのものが変更された今回の級地改正では、全国的には多くの都道府県で級地ダウンとなりました。そんな中で、下伊那関係では根羽小学校、根羽中学校の級地がそれぞれ1級から2級に改善されました。また、新設された泰阜小学校も1級に指定されました。これは、07年度から始まった下伊那支部など下伊那教育七団体連絡会の「へき地級地指定維持・改善のとりくみ」が、09年度10月には県教委による現地調査を実現させるなど、着実な成果を挙げたことによるものです。しかし、残念ながら私たちが切望していた天龍地区の級地指定は実現せず、基準変更の影響で、今まで指定されていた「特別の地域に所在する学校」からも外れてしまいました。

一方、国の動きとして、09年秋に公表された地方分権改革推進委員会の第3次勧告の中に「へき地学校等の指定基準及びへき地手当の支給に係る基準を条例委任する」内容が盛り込まれました。これを受けて、当時の鳩山首相は「地域主権の確立」こそ鳩山内閣の一丁目一番地の重要課題であるとして、「地域主権改革推進一括法案」を、昨年の通常国会に提出しました。この法案では現行の国の基準については「参酌すべき基準」として、基準を条例委任する内容が含まれていました。法案は参議院で可決され、後は衆議院での可決成立を待つばかりの情勢となりました。

このような情勢を受けて、南信州広域連合議会では、2月には「天龍村立2校及び学校給食共同調理場について、画一的な国の基準による判断のみでなく、土地の実情を理解され、貴委員会の独自判断により、今一度、現状維持が継続できる方途を検討すること」「長野県条例による級地指定基準の策定にあたっては、地域の実情に即した長野県ならではの平等な教育環境の充実につながるものとし、真の実態に基づく対応が可能なものを整えること」という内容を含む意見書を、県教委に提出して、県が級地指定基準を条例化して、天龍地区の級地を改善することが、南信州全体の要望事項であることを明らかにしました。

昨年度の答申を受けて、今年度も、例年よりも早く4月より活動を開始した山間地問題対策委員会では、情勢を検討した結果、地域主権改革推進一括法案成立を見据えて、条例化されるであろう級地指定基準について、昨年度に続いて今年度も6月という早い段階で県教委に下伊那教育七団体連絡会として直接要望を行うべきであると判断して、要望実現をはたらきかけるとともに、要望書の内容について研究を重ねました。

国家公務員や、地方公務員の特地官署等の指定基準等の研究を続ける一方で、6月9日には天龍中学校において山間地訪問を行い、天龍村の相対的へき地性が増大している現状について、多くの生の声をお聞きすることができました。そして、6月21日には下伊那教育七団体県陳情を行い、私たちの要望を直接聞いていただくことができました。

しかし、その後、国の情勢が変化して、地域主権改革推進一括法案は継続審議となり、未だ成立の見込みは立っていない情勢です。下伊那支部では、その後も9月の県教委陳情や県教委独自確定交渉などあらゆる機会で、天龍地区のへき地級地改善を訴えてきています。また1月20日には売木小中学校と隣県の愛知県豊根村立豊根小学校において山間地訪問を行い山間地の冬場の気象条件の厳しさを実感するとともに、へき地学校における通勤や生活の困難さ、小規模校における教育課程編制上の苦労や工夫、へき地手当等の待遇面における違いなどについての生の声を聞くことができました。

情勢は現在もめまぐるしく変化し、予断を許さないところですが、年度の区切りとして山間地問題対策委員会としての今年度の活動を終えるにあたり、来年度の下伊那支部の山間地問題に対する施策の視点として以下の内容を答申いたします。

1 へき地教育振興法の基本理念を生かし、来年度以降のへき地級地指定基準の条例制定に向けて、山間地の生活実態にあった指定基準となるように下伊那教育七団体などとともに県に強くはたらきかけていただきたい。

与野党対立が深まるばかりの現在の国会情勢では「地域主権改革」関連法案の成立は予断を許さない情勢です。しかし、下伊那支部としては成立の可能性がある限り、日教組や地元出身の国会議員にはたらきかけなどを行い、成立を期したとりくみを続けていく必要があります。また、これと並行して条例で制定される級地指定基準が「地域の実情に即した長野県ならではの平等な教育環境の充実につながるものとし、真の実態に基づく対応を可能なもの」となるように、研究を続けていく必要があります。情勢の変化により法案が成立するようなことがあれば、関係者の現地調査を再び実施するなど、敏速な対応をとる必要があります。

また、へき地教育振興法施行規則では級地の見直しは概ね6年毎に行うとされています。近い将来級地の見直しが県教委によって行われることは確実です。その見直しに向けて、ここ数年、理解が進んできている「へき地学校等の指定の問題は南信州全体の問題である」という認識を更に深めることが大切です。具体的な調査を伴う山間地訪問など、今までのとりくみを続けていくとともに、県会議員など関係各方面へのはたらきかけを強めるなど、幅広く継続的なとりくみをしていくことが肝要です。

2 特に、小学校の「飛び複式学級」、中学校の「複式学級」解消のための加配職員確保について引き続き関係諸機関にはたらきかけていただくとともに、複式学級編制校における、教育課程の組み方や年間指導計画のあり方等について、情報を共有できるように事例の収集に努めていただきたい。

児童生徒数が減少する中で、今後、複式学級とならざるを得ない状況に陥る学校が増えてきます。「小学校の飛び複式学級」「中学校の複式学級」では、教材も学習内容も大きく違う二つの学年が同時に一つの教室で一人の教員が指導しなくてはならないため、教育上様々な困難点があらわれてきます。私たちのとりくみもあって、県教委の特別の配慮により、今年度も和合小学校と平谷中学校に加配職員が配置されました。小中共に教職員の人数が少ないために起こる教育の質の低下、教職員の負担増を防ぐため、今後も加配職員確保について、後退することが無いようとりくみを継続していく必要があります。

そして、そのとりくみを継続すると同時に、現実には、複式学級編制となった時に備えることが大切です。昨年度の平谷小中や今年の売木小中での山間地訪問では教育課程編制上の工夫等について参考になるお話を聞かせていただくことができました。これからも、県の内外を問わず、複式学級編制校における実際の教育課程の組み方や年間指導計画のあり方等についての情報を収集して、分析し、ノウハウを蓄積していくことは、私たち、そして子どもたちのためにも意義あることだと考えます。

3 山間地校の具体的な実地調査をさらに深め、その実情や教育上の困難点・問題点を関係諸機関に強くはたらきかけて、へき地手当及びへき地手当に準ずる手当の支給率引き上げ、へき地特昇にかわる昇給号俸数の上乗せが実現するように努めていただきたい。

山間地に勤務するということは、生活物資は街場より高く品数はそろわない・単身赴任で二重生活を強いられる・怪我や病気による治療は病院の往復に時間がかかる・街場へ買い物に出るにも時間と交通費をかけて往復しなければならないなど、不自由や不安を抱えての勤務であり生活になっています。また、家庭を持つ中堅層が、山間地に勤務することは大変困難であり、職員構成は若年層や臨任職員に偏り気味です。

長野県のへき地手当の支給率は全国最低であり、愛知や静岡などの隣県と比べても著しく低い水準にあります。このような実態を正確に把握するために、今年度は隣県愛知県の豊根小学校(へき地2級)へも山間地訪問を実施しました。愛知県では地区ごとの人事異動が原則ですが、豊根小学校など北設楽郡の13校、全ての学校がへき地学校であり、従前通りの支給率(へき地学校に準ずる学校4%、へき地1級8%、へき地2級12%)が適用されています。長野県は全県人事を行っているにも関わらず、支給率は低く抑えられたままであり、支給率の引き上げは、当該学校の教職員はもちろん、下伊那全体の要望事項です。

へき地手当及びへき地手当に準ずる手当の支給率の引き上げ、へき地特昇にかわる昇給号俸数の上乗せが実現するために、強いはたらきかけととりくみをお願いします。